一歩先を行く、広島カープのMLB(メジャーリーグ)流スタジアム・ファイナンス術

MLB(メジャーリーグ)と日本プロ野球では収益構造が大きく異なります。

特に「リーグ構造」「チーム所有権」「スタジアム・ファイナンス」「放映権」の4つが大きく影響しています。

今回の記事では、スタジアム・ファイナンスについて、MLBモデルを採用した広島カープのお話をシェアします。

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日本プロ野球とMLBの仕組み

スタジアム・ファイナンスのお話の前に、まずは知って頂きたい日本プロ野球とMLBの基本的な違いについて説明します。

チームの所有権

 

日本では、球団は広島カープを除いて会社が所有しています。会社が球団を所有する理由は、本業の収益のための宣伝にすぎません。つまり、球団は会社にとって一つの部門や子会社という存在になります。そのため、球団の収益がマイナスでも、親会社が本業によってそのマイナス分を補填することができます。

日本型モデルのメリットは親会社からの資金提供です。しかしデメリットとして、スタジアムの改修や本拠地の移転などを含めて球団運営に関することは親会社の許可が必要になります。また、同じグループ会社内にスタジアムの管理会社が存在する場合、リース費用やコンセッションなど、収益の割合に応じた費用を支払わなくてはいけません。

一方、MLBでは会社が球団を所有することは認められていません。そのため、会社の社長や弁護士などの裕福な個人が所有することになります。このモデルでは、球団の独立採算になりますので、収益を生み出すための施策は球団の合意があれば行うことができます。また、基本的に球団がスタジアムの所有権か管理権を持っているため、スタジアム内の売上のほぼすべてを収入にするることができます。

✱ チームの名前について

日本球団の名前は、「東京読売ジャイアンツ」「東北楽天ゴールデンイーグルス」など、地名+会社名+名前で構成されています。日本の球団名を聞くと、会社名が一番先に頭に浮かぶのではないでしょうか。

会社が球団を手放す場合、次に球団を所有したい会社が立候補することになります。そのため、球団を所有する会社の本社がある地域にスタジアムを建設する場合が多いと思います。

MLBでは、「ニューヨーク・ヤンキース」「ボストン・レッドソックス」など、名前は地名+名前で構成されています。MLBの球団名を聞くと地名の印象も強く残る感じがします。

個人が球団を手話す場合、自治体も一緒に次の募集に名乗りを挙げます。球団を所有することで、スタジアムからの税金や雇用創出、地元の活性化など、多くの面で自治体を有力な観光地とすることができるからです。アメリカではプロスポーツのチームを所有していることは自治体にとって一つのステータスとなっており、お金が無い自治体は球団を所有することができないのです。

 

スタジアム内の権利

 

日本の球団がスタジアムを建設した場合、その所有権は「親会社」「自治体」「球団」「管理会社」のどれかが保持します。日本型モデルの場合、球団にはスタジアムを建設するだけの費用はないので、基本的には親会社が建設費を負担することになります。そのため、スタジアムの所有権は親会社や管理を行うグループ会社が持つことになります。

スタジアム関連の収益は「チケット」「売店(飲食、グッズ)」「プレミアムシート」「スポンサー」「コンセッション」「命名権」などが一般的です。

日本球団の場合、多額のリース費用の他に、一般チケットや売店の収益の何割かを親会社や管理会社に支払わないといけないことが多いです。球団が売店を出すことが認められず、グループ会社が出店している事例もあります。結局のところ、グループ会社全体で見たときの収益は変わらないので、プラスもマイナスもないのかもしれません。

MLBの場合、スタジアムの所有権は日本とほぼ同じで、「自治体」「球団」「管理会社」のどれかが保持します。しかし、スタジアムのリース費用は驚くほど少額であり、スタジアム内の営業権も球団にあります。そのため、スタジアム関連の収益はすべて球団のものとすることができるのです。

理由の一つとして、リース費用の高騰や営業権の問題により、球団が本拠地を移転しまう可能性があるからです。

MLBではほとんどの球団が黒字に対して、日本球団は広島カープを除くほとんどの球団が赤字です。アメリカではプロ野球は金のなる木に対して、日本では広告宣伝のためのパンダといった扱いなのです。

アメリカでは、MLB球団を所持することで、近隣のレストランやホテル、バー、ショッピグモールの活性化や、それに伴う雇用創出により、自治体もかなりの恩恵を受けます。そのため、スタジアムのリース費用は安くし、スタジアム内の営業権もすべて球団に渡してしまうのです。

日本球団とMLB球団の収入を比較すると、日本で一番のジャイアンツが218億円に対してMLBで一番のヤンキースは5.16億ドル(516億円)です。最下位のレイズでさえ1.93億ドル(193億円)です。

この数値はあくまでも収入であり、日本球団の場合はここからリース費用や収入の割合に応じた費用が支出として引かれます。しかし、MLB球団は日本球団のような支出がないため、利益面ではかなりの差が開きます。

 

 

スタジアム建設の資金源

 

日本球団の場合は親会社がスタジアムの建設費用を負担するのが一般的であり、MLBでは自治体やスポンサーなどが幅広く費用を負担します。

MLBスタジアムの資金源の一例を紹介します。

✱ General Obligation Bonds(地方債)

スタジアム建設地域の自治体が一般財源や新規借入金を利用して資金を負担します。

✱ Sales Tax(収入税)

スタジアム内で発生する税収入です。チケット代、飲食費、グッズ販売、駐車場代などにかかる税金が該当します。

✱ Tourism Tax(観光税)

スタジアム周辺地域でのホテル代、レンタカー代、レストランでの飲食費にかかる税金です。

✱ Sin Tax(酒税)

アルコールやタバコにかかる税金もスタジアム建設に貢献しています。

✱ Lotteries Revenues(宝くじ収入)

日本でいうところのサッカーくじ(totoBIG)のことです。アメリカではこのようなスポーツ関係のくじやスポーツバーでの合法なギャンブルは日本とは比べ物にならないくらい盛んです。そのため、これらの収入もスタジアムの建設費に充てることができます。

✱ Player Income Tax(選手の給与税)

選手の給与はホームスタジアムのある地域の税金だけが適用されるわけではありません。各選手の給与は出場したスタジムがある地域の税金が別途計算されます。そのため、ホーム球団以外の29チームの選手の給与に関係した税金が自治体に入ってくるわけです。

✱ Utility Tax(公共料金税)

スタジアム周辺地域の住民が支払う電気やガスなどの公共料金です。

✱ Land Donations and Tax Abatements(土地贈与、税免除)

自治体から税金なしの土地のプレゼントです。球団やスタジアムがもたらす経済効果のために自治体はここまでするのです。

✱ Contractually Obligated Income

この資金源はこの中では唯一、自治体が関係しません。契約によって期間や金額が予め決定する資金です。命名権やコンセッション、スポンサー、プレミアムシートなどのが該当します。

MLBの命名権は年間2.2〜20億円(10〜30年契約)に対して、日本は楽天が年間2億100万円(3年間)、広島カープが2億2,000万円(5年間)、千葉ロッテが年間3億1,000万円(10年間)です。MLB1番のドジャースは年間20億ドルで30年契約(総額600億円)ですから、規模が全然違います。

 

広島カープのMLB流スタジアム・ファイナンス術

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スタジアム建設費用

まずは「MAZDA Zoom-Zoom スタジアム 広島」の建設費用の内訳です。

資金源費用
地方債(広島市)23億円
地方債(広島県)11億5,000万円
地方交付金 ※110億4,300万円
球場使用料収入86億9,400万円
寄付金(地元経済界)※211億5,000万円
寄付金(個人)※31億2,600万円
合計144億6300万円

※1 国土交通省 まちづくり交付金、下水道国庫補助金等
※2 マツダ、中国電力、広島銀行等
※3 たる募金

費用の内訳として、公的資金が約30%、民間資金が約70%になっています。

広島カープは球団の独立採算で経営しているため、自治体や民間企業からの資金調達は必須となっています。このことが、MLBモデルを採用している理由だと思われます。

球団の収入&利益

収入利益
200561億7,080万円5,060万円
200656億8,070万円1,440万円
200762億910万円1,710万円 
200871億40万円 2億2,080万円 
2009117億1,700万円 4億100万円 
201098億4,710万円 2億9,600万円 
201196億5,010万円 2億310万円 
2012103億710万円 2億5,220万円 
2013106億6,290万円 2億6,050万円 
2014128億7,420万円 5億7,420万円 
2015148億3,260万円 7億6,130万円 

2005年から2015までの広島カープの収入と利益です。

2009年の新スタジアムオープンを境に比較すると、明らかに球団の収入と利益が増加していることがわかります。

特に2009年はオープンした年ということもあり、前年比(2008年)で収入が65.0%、利益が81.6%増加しています。また、2009年はこの10年間で3番目に高い収入&利益を記録しています。

一旦、2010年と2011年に落ち込んでいますが、2012年から再び右肩上がりになっています。

また、特筆すべきは赤字になっていないことです。広島カープは41年連続の黒字経営です。

 

観客動員数

ホームゲーム数総観客数(全試合)観客数(1試合)
200567966,35214,423
200665908,13313,971
2007661,051,58315,933
2008661,318,45419,977
2009671,784,12726,629
2010681,550,36722,800
2011691,543,41622,363
2012681,530,76322,511
2013701,542,97922,043
2014681,851,98127,235
2015672,041,95130,477

スタジアムへの来場者数も2009年の前後では1試合当たり7,000人ほど多くなっていることがわかります。全体としては緩やかに増加している感じですね。

 

観光業への効果

収入雇用数
2005〜2007136億円 ※平均1,460人 ※平均
2008160億円 1,640人
2009205億円 1,930人
2010176億円 1,640人
2011173億円 1,610人
2012180億円 1,680人
2013185億円 1,730人
2014217億円 2,070人
2015256億円 2,470人

スタジアム内(チケット、グッズ販売、飲食等)および広島市内(交通機関、レストラン、宿泊施設等)における収入と雇用数を表しています。

ご覧のとおり、収入と雇用数は2009年に大幅に増加し、一旦減速した後に緩やかに伸びていることがわかります。

広島カープの場合はスタジアム建設が周辺地域の活性化にきちんとつながっていますね。

 

まとめ

 

最後に今回の記事のまとめです。

  • 日本プロ野球は親会社の広告宣伝の要素が強く、ほとんどの球団が赤字である。
  • MLBの球団は親会社ではなく、個人が所有。独立採算であることと、収入&雇用の面で地域の活性化に貢献するため、自治体と一緒になって黒字運営をしている。
  • 広島カープがMLBモデルのスタジアム・ファイナンスを活用し、球団の収入&利益だけでなく、地元広島市の活性化に貢献できている

 

今回の広島カープの事例はあくまで、一例です。カープと広島市の関係性は元々良好であったことがMLBモデルを採用できた要因の一つだと思います。他の球団の場合は親会社との関係や地元の県や市などの関係もありますし、日本のスポーツの人気度はアメリカには及ばないので、MLBモデルを採用するのは難しいとも思われます。

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